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1分間勉強考
ふたりの出会い~『1分間勉強法』誕生秘話 『1分間勉強法』の成功を論理的に考える 第三部 『1分間勉強法』の今後
“『1分間勉強法』の成功を論理的に考える
“経験と科学的な根拠に基づいた『1分間勉強法』
出口  今度は、話が『1分間勉強法』に戻りますが、僕は「論理」をずっとやっていて、『1分間勉強法』とは相矛盾するイメージを持つ人がいるかもしれませんけど、実は僕自身も記憶に関しては予備校時代からずっと考えていて、予備校の講義でよく言ったのが、忘却曲線を示して「時間をかけて完璧に覚えようと思っても、どんなに頭が良くても、必ず人間は忘れてしまう」ということです。大抵の人は、一生懸命に覚えても、ほったらかしにしてしまうんですよね。記憶量を0から100まで持っていくときにものすごい時間とエネルギーを使って覚えても、実際に受験する1年後、2年後には、もう20~30%しか残っていない。覚えたものは覚えたと思いこんでしまって、二度とやらない人が多いんです。覚えたんじゃなくて、「覚えていた」ということに気がつかないんですよ。
  だから、記憶量というのは、現時点で量るんじゃなくて、自分が想定した1年後、2年後にどれくらい覚えているかを設定して、逆算してやっていかなきゃダメだというのが、僕の持論です。
石井  そうですね。その通りです。
出口  人間はどうしても忘れるのだから、そのためにはやはり、1回に時間をかけるよりも、最低4回、5回、6回とうまく間をあけて、良いタイミングで繰り返さないと、記憶できないと思います。
  そこで、実際に科学的な根拠に基づいて記憶法をコンピュータに持って行ったのが、セレゴジャパンのアンドリューとエリックたちですが、僕は『1分間勉強法』を読んだときに、石井さんはそれをもっと手軽にやってしまうんじゃないかなとも思ったんですよ。
石井  そうですか。僕は直感頼みなんで、実際にやってみたらそれが正しかった、ということが多いですね。
出口  実際に本が売れたのは、最初は『1分間』というタイトルに惹かれたのかもしれませんが、石井さんがやって成果があったように、読者のかなりの人も実際にやって、成果があがったんでしょう。だから、本当は科学的な根拠に基づいたやり方だと思いますよ。
石井  はい、そうだと思います。僕はいつも、エビングハウスの忘却曲線を利用して説明するんですけど、実験によると、一度覚えたことも20分後には42%、1時間後には56%忘れてしまうんですね。ということは、半分のものを100パーセントに戻すのは簡単でも、それ以上忘れちゃうとやっぱり難しいと思うので、記憶が50パーセント程度残っている時間帯の、20分から1時間後にもう1回復習するのが一番良いので、1単語1秒で見て覚えて、20分から1時間間隔をあけた後にもう1回やるというやり方です。
  この方法がなぜ正しいと思ったかというと、テレビのCMが全く同じ原理でできていて、僕がテレビ局で、CMのナレーションをしていたことがあったからです。テレビCMは15秒で、ラジオCMは20秒ですけど、テレビって15分ごと位に1回CMが入りますよね。人間の短期記憶の限界が20秒なので、15秒とか20秒のCMを15分ごとに入れていくと、嫌でも覚えてしまうという仕組みなんです。
  このメソッドがあったので、僕も「20分から1時間後くらいにもう1回刺激を入れること」を思いながら、例えば『1分間高校受験英単語1200』にしても、1単語1秒でいくと1200はちょうど20分ですよね。だから、20分で一通り終わったら、もう一回先頭から戻っていく、というメカニズムにしてあるので、一瞬で覚えられるかなと思いまして。しかも、記憶を定着させるには、1回だと忘れてしまうので、1日に3回はやった方が良いと思っているんですよ。
出口  なるほど。僕も、自分の経験を頭に置いて話を聞いていましたが、同じですね。僕自身も「論理」を本にしてきましたけど、僕は受験時代に全く勉強しなかったから、最初から「論理」がわかっていたわけじゃなくて、もとになるのは自分の経験ですね。現代文というのが一体どういうものかもわからずに予備校や高校で教えていて、毎回毎回入試問題を解いていくうちに、「あれ? この入試問題を生徒が100%わかったところで、同じ文章、同じ問題は出ないんだから、意味がないんじゃないか?」「となると、共通する読み方・解き方があるんじゃないか?」と考えて、そのうちに自分なりの読み方・解き方が頭の中で徐々に法則化されてきて、こういうふうに教えれば、みんながもっとわかりやすく論理的に読めたり解けたりするんじゃないかと意識するようになったんですよ。
 多くの教員はおそらく、その問題を説明しておしまい。次の問題を説明、っていう進め方だと思うけれど、最初に体験から来て、それをだんだん自分の中で一般化して、これは帰納法的な発想っていうんですけど、石井さんはたぶん、帰納法的な頭の使い方がすごくうまくなったんじゃないかと思いますよ。
石井  はい、そうですね。まず結論があって、それを実体験でできるかどうか試してみるという感じでした。
出口  そう、結論から推測して仮説を立てるというのは、物理学とか科学は全部そうですよ。しかも、あくまで仮説には飛躍があるんですよね。僕にも飛躍があって、自分でも本当にこれで良いんだろうかと思って、仮説に基づいて繰り返し検証を行い、その中で「ああ、これは間違いなく効果がある」とわかってきて。
  みんなから「そんなことはありえない」って言われた中でも、仮説を立てて実証し、年間300、400という入試問題を人に説明して、ずっと繰り返しやっていくうち、全部同じ読み方・解き方で解けると実証しました。そして、間違いなく現代文は「論理」で解けると確信して、自分なりに「現代文は『論理』だ」となってきたんですよ。
石井  そうですね。出口先生の講義を受けていた時代は、「現代文は論理」っていうのは本当に新しくて、「現代文は勘で解くものだ」が常識でしたよね。
出口  まあ、本当は勘だけれど、そういう言葉が悪いから、センスだとか、感覚だとか……。
石井  そうです。「現代文はセンスの問題だから、やってもしょうがない」って、学校の先生もみんな言っていた時代ですよね。
出口  そうでしょう。僕の受験時代はずっと、「とにかく書いて覚えろ」「頑張ってこれだけ覚えてこい」で、みんな一生懸命必死で覚えようとしたけど、覚え方については誰も教えてくれなかったですよ。1回目からそんなに必死になって時間をかけて覚えるんじゃなくて、サラッとやって繰り返した方がはるかに効果的だっていうのを、まさに演繹的に、しかも石井さんの優れているのは、それをもっと整理して、誰もが使える形にまできちんとお膳立てした点ですね。まさに、料理を作ったうえで世に出したというのが、『1分間』のすごい所じゃないかと。やはり売れるっていうのは、それを実際にやって覚えられた、あるいは成績が上がった人がいっぱいいたということです。
 『1分間』が出て、既に1年以上経っているんですよね?
石井  もう2年半です。
出口  2年半! もし効果がなかったら、もうとっくに消えてしまっているわけだから……。
石井  そうですね、いまだに売れ続けていますよ。
出口  たぶん、最初に『1分間』が売れたときには、タイトルとかいろんな形で当たった所があって、ワ~っとベストセラーになりましたけど、そこから「1分間シリーズ」は英単語をはじめ、いろいろ出ていますよね。この2年半の間、徐々にみんなが、本当に効果的だっていうことがわかってきて……。
石井  そうですね。塾の先生もブログなどで、「見て覚えるのは効果的だよ」って書き始めているので、やっとかなっていうのはありますね。
出口  それがあって初めて、受験参考書の中でも「今度はこういう1分間の本が出て、また売れている」という状況になっていると思いますよ。
石井  はい、そうですね。
出口  僕がエリックとアンドリューと出会ったのは、もう10年以上前ですけど、科学の世界について教えてもらっていたので、『1分間』のやり方は、間違いなく科学的な根拠があると僕の中では確信を持っていて。それを、パソコンも使わずに本の中で、見事に誰もができる形に持っていったのは、これはもう、石井さんのすごいところだなって思いながら読みました。
石井  ありがとうございます。僕は受験時代、参考書や英単語帳とかを片っ端から買っていたんですけど、どうしても自分に合うものがなくて、結局自分で作っていたんですね。それで当時思っていたのは、1単語1秒で覚える英単語帳が世の中に存在しないのは、なぜなんだと。英単語に2個以上の意味が書いてあるの が、本当に嫌で嫌でしょうがなくて。しかも、名詞だったら「名詞」とか(名)というふうに書いてあるんですよ。でも、そんなのはいらないし、目に入れたくもない。例文が書いてあっても、例文っていらないって、ずっと思っていました。で、例文とかが全部なくて1単語1秒で覚えるものがあったら、自分は買うんだけどなというのと、もうひとつはカラフルな英単語帳が無いかなと。1冊も無かったんですよ、当時は。でも、このふたつを満たした英単語帳があったら売れるなという話があって。
  で、それを中経出版に持って行ったんですけど、当然のことながら反対されるわけですよ。英単語帳っていうのは、旺文社が『英単語ターゲット』を出していて、Z会が『速読英単語』を出していて、著者名で売れたのは、青春出版社の森一郎の『出る単』しかないと。しかも、「石井さんは予備校の先生でもないですよね。英語の先生でもないですよね。そんな人の英単語帳が売れるはずないじゃないですか」って言われて。
出口  それが一般的な考えですよね。
石井   その時、ちょうど『1分間勉強法』が13万部くらい出ていて。編集担当の人が、「石井さんが『やる』っていうんで、何とか企画を通しちゃいました」っていう感じで、企画立案から1か月くらいで、僕はその間こもりっきりで英単語をセレクトして『1分間英単語』が出たんですよ。それで、出たら発売1か月で5万部になって、この2年ぐらいは、有名どころの『英単語ターゲット』とか『速読英単語』と同じくらいは出版されている状態で、今、9万1千部ですね。
出口  僕は、『1分間英単語』が売れたのは、石井さんが英語の先生じゃなかったからだと思いますよ。英語の先生だったら、あれは書けない。なぜかと言えば、この英単語にはこういう使い方もある、こんな意味もある、これも大事だ、この例文もどうしても覚えてほしい、この構文のここで使うからこれもいるし、発音やアクセントとか、いろんなものをズバッと捨てきれないでしょう。
石井  ああ、私にはまったくそんなこだわりはなかったです。
出口  それが逆に、すごくわかりやすくて、使いやすかったと思いますよ。それと、『1分間』の記憶法に関して僕の考え方と同じだと思ったのは、例えば今回、『1分間日本史』『1分間世界史』を水王舎で出してもらいましたけど、僕は「雪ダルマ式勉強法」と「俯瞰的な視点」を予備校時代からずっと言っているんですね。どういうことかというと、物を覚える時に全部覚えようと思うとこれは無理だから、雪ダルマの芯だけをしっかりとつかまえなさい。芯がしっかりしていると、勉強していくうちにどんどん雪ダルマが膨れ上がっていって、記憶量が増えてくるんだと。
  まさに『1分間勉強法』は、その雪ダルマですね。特に日本史・世界史では、その全部を順番に覚えるのではなくて、まず核になるものを先に覚えてしまえと。
石井  そうですね、はい。
出口  なおかつ、日本史、世界史といった歴史を考えたときに、全体を俯瞰することが大事であって、例えば、原始から順番に一生懸命覚えていると……。
石井  だいたい原始時代で終わっちゃう人が多いですよね。
出口  そうそう。つまらないし、全体がわからない。で、最後までいくと、前の方は全部忘れてしまっているし、時間もかかってしまう。それよりも、まずは原始時代から現代に至るまで、ポイントになる所だけをきちんと押さえて全体を俯瞰する。そして芯をしっかり作っていき、その後に徐々に細かいことを雪ダルマ式に増やしていく。こういう勉強の仕方が良いと思いますし、僕は受験時代に日本史・世界史が一番得意で好きで、そのやり方ですごくうまくいった経験もあって、いつか記憶の本を書きたいと思っていたけれど、先を越されてしまった。(笑)
石井  日本史・世界史に関して、僕も受験時代「こういう問題集があったら良いのに」っていうのがありました。まず、一問一答の問題集が細かすぎて現代までたどり着かないことと、もうひとつは、問題集が全部白黒で嫌だなっていうことです。それが一気に解決したらいいなという思いから、今回『1分間日本史1200』『1分間世界史1200』ができました。
出口  視覚的にも整理しやすくなっているわけですね。
石井  はい、色については、人名が赤で、出来事・事件が緑で、年号が青で、その他が黄色と、4色のマーカーが、あらかじめキーワードに引かれています。ですので、パラパラっと見たときに、例えばどんな人名がいたかなと思ったら、赤だけが目に入ってきて、それで人名が覚えられるんですよ。
出口  なるほど。僕が受験時代に日本史・世界史でやったことは、教科書をザーッと読んだ後に、例えば「人名」だけを赤で消していきましたね。
石井  あ、僕もそうです。
出口  で、次は「事件名」というふうにしてうまくいったやり方を……。
石井  はい、僕もやりました。
出口  それを形作ることは、理論的にも本当にピッタリで、うまくいくやり方だと思いますよ。やはり受験生は正直ですから、一般書と違って実際に自分がやって、成績が上がったかどうかですよね。
石井  そうですね。
出口  効果がなかったら「もうあれはダメだ」ってみんなが言って、口コミでダメなものになってしまうし。だからそういう意味では、間違いなく『1分間』をやった生徒の、全員とは思わないけれども、かなりの数がやっぱり効果があったと思って、口コミしていると思うんですよね。
石井  そうですね。おそらく、『1分間』をやってしまったら、もう他の参考書は使えないんじゃないかっていうくらいのわかりやすさだと思いますよ。
出口  今、ふと思ったのは、教師経験が無いから良かった点もあるかもしれない。つまり、完全に受験生側、生徒の立場に立って、自分がこうやれば覚えやすかったという視点でやっているでしょう?
石井  ああ、そうですね。
出口  と同時に、学校の先生には見えないことがあって、「先生の言うことをそのまま鵜呑みにするな」と、授業でも言ったことがあるんですよ。どうしてかといえば、例えば英語の先生の場合、10年、20年と英語ばかりやっていっぱい知っているから、先生は自分の今までの経験をもとに「こうやれ」と言うでしょうし、国語の先生も、数学の先生もそう言うでしょう。でも、学校もある現役の受験生が、10か月という限られた中で、英語も数学も理科も社会もとやると、間違いなく……。
石井  ダメですね。
出口  パンクしてしまうでしょう。あるいは、英語の先生の言う通りにやると、英語はできるかもしれないけど、他の科目ができなくなる。ところが、教える側はそれがわからなくて、どうしても自分の経験をもとに、英語の先生は英語ばかりをやっているわけですよ。
石井  自分が教える教科の成績を上げさせたいって思うのは、当たり前ですけどね。
出口  受験生の視点・立場で言えば、100%はいらないけど6割7割わかれば入試に通るという時、どうやれば短時間で効率よくできるかという点では、教える人間はどうしても弱いですよね。
石井  そうですね。やはり、その教科の成績だけを上げようと思ってしまって、全体の教科を考えた時には、例えば出口先生の現代文は、高校1年、2年でマスターしてしまえば1年たっても忘れないですが、もし、 世界史・日本史を高校1年でやってしまったら、受験の時には何も覚えていないということを考えると、国語や小論文・数学を最初にやった方が良いっていう、その時間配分を考えてほしいんですけど。でも、学校の先生にはそれがまったく抜け落ちていると思いますね。
 要は、高校3年の1月、2月だけ偏差値70ならば、それ以外は偏差値50でも30でも良いんですよ。その視点が全くないですね。
出口  だから文系で言えば、順番的にまずは国語力、論理力をつけて、それから次に英語。で、最後に暗記、って言ったら変だけれども、社会。順番もそうですし、例えば僕は、この水王舎という出版社を作ったのも、国語、現代文が、単に科目じゃなくて、「論理」であり、あるいは言語処理能力であり……となると、これはすべての教科の土台になるという信念があったんですよ。
石井  いや、本当にその通りです。僕は、自分が3か月で偏差値70になったと言っていますけど、それはやはり、高1、高2の時に出口先生の現代文をやっていて、その下地があったからだと思うんですよ。僕は、先生の現代文を何回も何回も繰り返してやったお陰で、数学とか社会とか他の教科が伸びたイメージが強いです。僕の通っていた高校は進学校ですけど、そこでの出口先生の口コミの評判は、国語の成績が上がるというよりも、これをやると他の教科も上がるよ、まずは出口の現代文からスタートしよう、みたいな感じでしたね。
出口  うーん、嬉しいねぇ。
石井  はい、そんな感じで、僕もまずはそこからスタートしました。